20251201胡
■編集子の語り
古い資料だが、瀧石登鯉「土佐の”カイチ”」『土佐史談85号(1955.2月)』は、高知市鏡の大河内・池河内・親河内の河内をガチと呼んでいた。万葉集の”かきつ”は住家の垣の内だと解釈されている「カイト」即ち「河内」であり部落の意。新しい部落ができると部落民が進行する神が「かいちの神」で、これが「河内神社」となったと述べる。
高知では「河内」をガチと呼ぶところもあるが,東日本ではこれをカッチと呼んでいる。『日本国語大辞典』では「河内/カッチの語釈は①川や沢の上流。水源。また、その地帯②山の奥。深山。へんぴな地。また、山奥の村③山間。はざま④奥。また、山の頂上とある。カッチもガチも同じ語意のようだ。ゴウトと呼ぶところもある。
カイト系の地名は全国に分布し、多様な漢字が当てられ、カイチ・カイツ・ヶ市・ノ内などたくさんの転訛もあり面白い。
柳田国男は「伊賀では旧村名に界外があって、界の字を用いたのは区画の思想がかすかに伝わっていたためであろう」という。柳田は「中国ではもっぱらカイチであったらしく、しばしば皆地の字をあて、また備前・美作以西に、今は岡ヶ市・岬ヶ市などと「ヶ市」の字を用いる例がはなはだ多い」と加えて述べる。
電子国土Webで検索したら、まさに中四国地方に分布する。カイチの転訛と思われる「ヶ内」を同じく検索したら、岡山はないが同様に四国に多く分布する。大字より集落名が多くここからも集落区画の名づけの動機がうかがえる。
地名に多いのは、クボ(窪)・クビ(首)・クマ(隅)・クリ(刳り)・クテ(湫)など囲われている土地の地形地名だが、その囲う(カコウ)の名詞形がカキ(垣)であり、カイト(垣内)はその空間の集団生活をさす言葉でカワチはその転訛だろう。
川野茂信「コウについて」『土佐史談140号』はコウを①溝②塚の語と読む。川野茂信は長宗我部地検帳のホノギを語彙別に分析した『長宗我部地検帳のホノギについて』を発表しているが、今回は地検帳のホノギにある単語「コウ・カウ」を構成する熟語を収集・整理して、A:コウは用水路の術語として土木技術とともに渡来し日常に溶け込み民俗語となった。日葡辞書にも「溝洫(コウイキ) ミゾまたは樋(ひ)」とある。
②として「高」の字があてられ高い地形を意味するコウ山・高ノ山のグループの「コウ」を分析し、塚のような小山の意味。結果としてコウを①川によって代表される人工水路の「コウ」②高によって代表される塚・小山の「コウ」と推考する。高知や河内にも関連する「コウ」でもある。カワのカは淅(カス)・滓(カス)・瓶(カメ)と同じくカ=水の動詞形だ。
高知県バージョンでは「川内(カワウチ)」「河内(カワチ)」「高知(コウチ」「ガチ」「ヶ生(ウイ)」も集落区画の地名ではないかと推論する。
集落区画の地名だが、高知県のカイト系と思われる小字を拾ったら1,420か所あった。カイト・カイツはナシ
〇〇ノ内:690か所
〇〇ヶ内:358か所
〇川内:63か所
〇〇ウイ(ウ井・ノ上):52か所
河内(カイチ・カウチ・コウチ):33か所
カイチ(カ市・開地・改地):32か所
〇ガチ:29か所
昭和30年の土佐史談85号に瀧石登鯉『土佐の「かいち」』があった。万葉集「恋しければ来ませ吾がせこかきつ柳・・」のカキツは”住家の垣の内で、カキツは「カイト(垣内)」のもっと古い形という。県下に多い河内神社も「かいちの神」とし、河内神社とカイチ地名の分布の類似を指摘。『土佐の「かいち」』は、「天正時代には、今何河内(ガチ)と呼んでいる土地は何垣内と書き”何カイチ”と呼んでいた。鏡村大河内が音韻変化で大ガチになった」と述べる。ガチ地名は旧土佐郡十六村周辺に多く、遠くは須崎市にも。いの町小野字入道ガチのホノギは「入道カイチ」とある。また、『長宗我部地検帳』の長岡郡本山郷の沢垣内名があるが、現在は本山町沢ヶ内(そうがうち)に比定され、垣内が「ヶ内」に転訛した例と言える。
■「ヶ市」12
津野町芳生野・口目が市集落
津野町桑ケ市
四万十市鍋島・中ヶ市集落
四万十市古尾・桃が市集落
四万十市常六・中が市集落
四万十市西土佐藪ヶ市
四万十市西土佐大宮・中ヶ市集落
大月町姫ノ井・竹ヶ市集落
三原村下長谷・安ヶ市
三原村下長谷・鶴ヶ市
■「ヶ内」18
大豊町梶ヶ内
大豊町立川上名・仁尾ヶ内集落
本山町沢ヶ内
土佐町和田・八ヶ内集落
いの町小川樅ノ木山・堂ヶ内集落
仁淀川町土居・桑ヶ内集落
佐川町黒原・場所ヶ内集落
四万十町親が内
四万十町日野地・森が内集落
四万十町大正中津川・森が内集落
四万十町木屋ヶ内
■「ノ内」44
室戸市元・上の内集落
室戸市吉良川町・宮の内集落・脇の内集落
安芸市古井・中ノ内集落
香南市香我美町上分・堀の内集落
香美市香北町川ノ内
香美市物部町岡ノ内
香美市物部町神池・川ノ内
南国市堀ノ内
大豊町怒田・ウツゲノ内集落
いの町池ノ内
いの町下八川・程ノ内集落
土佐市宮ノ内
越知町片岡・谷ノ内集落
佐川町川ノ内組
須崎市浦ノ内
須崎市池ノ内
津野町西谷・川の内集落
津野町芳生野・谷の内集落
四万十町川ノ内
四万十町江師・川ノ内集落
黒潮町有井川・川の内集落
四万十市古津賀・橋の内集落
宿毛市山奈町山田・土居ノ内集落
四万十町が新設される前の旧窪川町と旧大正町の春分峠を境とする両側の地区は中津川である。合併後には同じ町内に同一の字とならないよう窪川地内が窪川中津川、大正地内が大正中津川と大字変更となった。その両方ともにある集落名が「森ヶ内」である。
森ヶ内:長宗我部地検帳では、上山郷森河内村。現在は大正中津川地区の森が内集落。字名に森ヶ内山
森ヶ内:長宗我部地検帳は仁井田壱斗俵村地検帳 土佐国高岡郡津野分の簿冊にあり、栗木村作野番ノ内、桑ノ役ノ村作野ノ内の次に「是ヨリ森カイチ」とある。字名に森ヶ内がある。
また、四万十町内に川ノ内地名も、旧窪川町の大字と旧大正町の江師地区内の集落名としてある。
また、寺野地区には井細川左岸にほぼ連なって「サワイガ市」と「キサイガ市」の字がある。ホノギに「サハイカイチ」、「キサイカワチ」とあることから比定できる。
このように町内各地に分布する同じような系統の「〇ヶ内」「〇ヶ市」地名の不思議を探ってみたい。
■語源
▼「垣内(かいと)」地名
松永美吉氏は民俗地名語彙辞典で「将来、耕地化することを予定して囲った地域をいう。本来はカキウチで、カイト、カイチ、カクチ、コウチ、カイツケエト、カイドなどと訛って用いられ、文字としては、垣内、海戸、門内などは単独で用いられるが、ほとんどは語尾として使われ、語頭としては開発者、所有者の人名や所在地の方位や目標となる樹木の名を冠したものが多い。」とまとめ、また「中国地方の堂ヶ市、岡ヶ市、岩ヶ市という『何ヶ市』の地名のガイチも、市場の市ではなく、カイトにあたるものであろう」と説明している。
地名語源辞典(山中襄太著)では⑩ヶ市、ヶ内。近畿地方では組の意味。長野県南伊那では屋敷の意味。尾州藩時代の木曽地方では組の意味と説明し、鏡味完二氏の「カイト地名は多く山間にあるから峡所(カイト)の意だったのが、垣内(カイト)、街道(カイト)などに解せられるようになった。」を引用している。
楠原佑介氏はがいち(ヶ市、垣内、日市)の項で「①カイト系の地名②~ケ(日)イチ(市)で、三斎市の開かれる日による地名。③カヒ(峡)・チ(接尾語)の意のものもあるか。」
長宗我部地検帳のホノギとして何カイチは町内全域に分布することから、〇カイチが「〇ヶ市」や「〇ヶ内」に転訛したものと推定できる。
■四万十町の採取地
▼ヶ市の字名
下ソエヶ市(若井)、栗木カイチ(若井川)、中ヶ市(口神ノ川)、大宮ヶ市(中神ノ川)、ウルシガ市(勝賀野)、防ヶ市(作屋)、フキヶ市(東北ノ川)、ヤカイチ(大正)、ナルカイチ(打井川)、ヤマメカイチ(大正大奈路)、轟ヶ市(窪川中津川)、堂ヶ市(与津地)、小田ヶ市(弘見)、中ヶ市(芳川)、仲ヶ市(大正中津川)、ドヲガイチ(古城)
▼カイチのホノギ
サウエカイチ(若井)、栗ノ木カイチ(高野)、ヤマメカイチ(高野)、シロツカイチ(高野))、チウクカイチ(若井川)、マウトウカイチ(見付)、中カイチ(口神ノ川/永野地之村)、堂カイチ(口神ノ川)、シユユカイチ(中神ノ川)、シロウツカイチ之村(中神ノ川)、若宮カイチ(中神ノ川)、シヤウカイチ瀬(桧生原)、チヨカイチ(南川口)、クリノ木カイチ(家地川)、下カイチ(七里/小野川村)、中カイチ(七里/志和之村)、島カイチ(七里/志和之村)、ウルシカイチ(勝賀野)、コスケカイチ(勝賀野)、シモカイチ(川ノ内)、中カイチ(川ノ内)、フキカイチ(東北ノ川/北川村)、オウカイチ(作屋)、トトロカイチ(窪川中津川/桑ノ役ノ村)、森カイチ(窪川中津川)、セントウカイチ(与津地)、シヤウシカイチ(奈路/桑河村)、中カイチ(八千数)、シヤウシカイチ(奈路)、平内カイチ(奈路)、平田カイチ(奈路/タツモトノ村)、小田カイチ(弘見/シキ地之村)、ヤカイチ(大正/津々羅川村)、ナロカイチ(打井川)、ヤマメカイチ(大正大奈路/ふるすく村)、中カイチ(大正中津川/中津河村)、竹カイチ(大井川)、栗木カイチ(大道)、堂カイチ(古城)、カイチノ奥新開(古城)
▼ヶ内の大字
「川ノ内」「親ヶ内」「木屋ヶ内」
▼ヶ内の字
森ヶ内(窪川中津川)、森ヶ内山(窪川中津川)、表ケ内(窪川中津川)、堂ヶ内(与津地)、船戸ヶ内(与津地)、障子ヶ内(奈路)、上島ヶ内(志和)、下島ヶ内(志和)、奥森ヶ内(大正中津川)、森ヶ内山(大正中津川)
▼カウチのホノギ
桜カ内(七里/小野川村)、奥カウチ(川ノ内)、カウチヤシキ(川ノ内)、タウカウチ(八千数)、カウチ(大鶴津)
■町外の採取地
▼ヶ市(カイチ・ガイチ)の字名
三ヶ一(香美市河北町美良布)、大改地(香美市土佐山田町逆川)、宮ノカイチ(香美市香北町韮生野)、アンノカイチ(香美市香北町美良布)、後ヶ市(南国市明見)、大ヶ市(南国市廿枝)、イナガイチ(いの町小川東津賀才)、漆ヶ市(佐川町本郷)、栗ヶ市(佐川町本郷)、若宮ヶ市(佐川町本郷)、上與惣ヶ市(佐川町西山)、南ガイチ(土佐市北地)、中賀市(土佐市永野)、南ヶ市(土佐市永野)、中ヶ市(須崎市上分)、豕ケ市(いのこがいち/須崎市上分)、イノコガイチ(須崎市下分)、堂ヶ市(須崎市下分)、南ヶ市(須崎市下分)、巳家ヶ市(みやがいち/須崎市多ノ郷)、向ヶ市(須崎市多ノ郷)、栗木ヶ市(須崎市神田)、桑ヶ市(須崎市押岡)、奥カ市(須崎市吾井郷)、イノガ市(津野町船戸)、桑ヶ市(津野町の大字)、杖ヶ市(津野町芳生野)、中ヶ市(津野町芳生野)、下ヶ市(四万十市小西ノ川)、中ヶ市(四万十市小西ノ川)、上ヶ市(四万十市常六)、下ヶ市(四万十市常六)、中ヶ市(四万十市常六)、仲カ市(四万十市高瀬)、中ガ市(四万十市手洗川)、仲ヶ市(四万十市敷地)、下モガイチ(四万十市蕨岡甲)、上桃ヶ市(四万十市蕨岡乙)、上ミ中ヶ市(四万十市鍋島)、ドヲガイチ(四万十市深木)、トノガイチ(四万十市深木)、西カ市(四万十市江ノ村)、中ヶ市(四万十市国見)、棒ヶ一(四万十市楠島)、宅見ヶ市(四万十市森沢)、倉ヶ市(四万十市入田)、西ヶ市(四万十市入田)、森カ市(四万十市西土佐長生)、ナガレガイチ(四万十市西土佐口屋内)、堂ヶ市(四万十市西土佐藤ノ川)、中ヶ市(四万十市西土佐藤ノ川)、西土佐藪ヶ市(四万十市の大字)、中ヶ市(四万十市西土佐大宮)、ドウカイチ(宿毛市小筑紫伊与野)、苗代ガイチ(なじろがいち/大月町泊浦)、カイチ(大月町平山)、上ヶ市(大月町赤泊)、 下ヶ市(大月町赤泊)、竹ヶ市(大月町赤泊)、西ヶ市(大月町赤泊)、米ヶ市(大月町赤泊)、中ヶ市(大月町才角)、福蔵ヶ市(大月町才角)、ヲモ開知(大月町春遠)、カイチ山(大月町春遠)、上ミカ市(大月町春遠)、堂ガ一(大月町春遠)、中ヶ市(大月町春遠)、中ヶ市(大月町姫ノ井)、タクカイチ(大月町姫ノ井)、ホラガ市(土佐清水市立石)、堂ヶ市(土佐清水市下ノ加江)、中ガ市(土佐清水市下ノ加江)、ヒサガイチ山(土佐清水市下ノ加江)、ウルシカ市(土佐清水市鍵掛)、仲ヶ市(土佐清水市大岐)、トヲカイチ(土佐清水市窪津)、上ヶ市(土佐清水市横道)、上ヶ市(土佐清水市横道)、ドウヶ市(土佐清水市斧積)、中ヶ市(土佐清水市斧積)、松ヶ市(土佐清水市下益野)、千上ヶ市(土佐清水市下川口)、竹ヶ市(土佐清水市貝ノ川)、中ヶ市(土佐清水市貝ノ川)、下モガ市(土佐清水市宗呂)、中ヶ市(土佐清水市宗呂)、カイチ(土佐清水市宗呂)
▼ヶ内(カウチ・ガウチ)の字名
(高知県内各地に分布し、多数のため略。後日市町村別分布図を作成し補完します。)
