Vol.04 暮らしの水と川

■川地名の郷村

 大正には中津川、芳川、葛篭川、四手ノ川、打井川などのように「川」を語尾に付けた郷村が多く見られる。狭隘な山間地で熊手のような谷川の流域を生活圏とするこの地のひとは、それぞれの流域で村落共同体を形成してきたのだろう。

 「地名用語語源辞典(楠原佑介・溝手理太郎編)」では川の解説を『古くは「ヰ」が「川」を意味したのに対し、「カハ」は日本の各地で「井戸・掘・池」を表す用語として使われてきた。これはヰとカハの意味内容が転換したわけではなく、我々の祖先にとっては「水そのもの」が重要であって、河流を源流から河口部まで一本の流れとして認識する必要はなかったのではないか。』と述べている。

 「民俗地名語彙辞典(松永美吉著)」ではカワの解説に『井戸のことをカワというのは、沖縄から四国の愛媛県あたりまで(中略)昔は「井戸」と「川」とは、日常生活のうえでも、語形のうえでも区別されなかったのではないか。カワという語の意味は、日常の生活に必要な「井戸」の方へ重心を移していったのであろう。』と述べ、井戸をカワと呼んでいる地域では「川」をナガレガワ、カーラ、カアラといったという。

 

■水利用と若水

 昔の暮らしでの水利用は、日常的には井戸水や自然湧水を樋で引込んで利用し、正月の若水だけは名残として流れ水から汲んでいたものではないか。隣の下津井地区では今でも元旦に若水の行事を行っているという。

 谷川の名称が中津川であろうがなかろうが「末子ばあさん」が洗濯に行くのはサワタリの「おきの川原」でことたりたのだろう。土佐州郡志の中津川村の項に山川として記述しているのは「成川谷」と「小松谷」だけである。